最終更新日: 2020.09.6

遺伝子治療 の 費用は高額 ?

筋萎縮性側索硬化症(ALS)
パーキンソン病(PD)
アルツハイマー病(AD)に対して
「薬剤や手術」だけが治療ではありません。

「遺伝子治療」が現実に向けて進んでいます。

村松慎一・自治医科大特命教授らが
設立したベンチャー「遺伝子治療研究所
が現実的に遺伝子治療にむけて
動いています。



結果的に記事が長くなってしまいました。

疾患ごとに項目を作りました。
興味ある項目にピョンと飛んでください。

遺伝子治療って
良くわからなくて怖いって方は
「遺伝子治療の歴史」や
「遺伝子治療の危うさ」の項目に飛んでください。

「遺伝子治療の費用」に興味がある方
「遺伝子治療にかかる費用」の項目に飛んでください。

がんの最善の治療法に興味ある方
「遺伝子治療の危うさ」に飛んでください。



遺伝子治療をわかりやすく言うと

遺伝子治療とは
遺伝子をいれこんで
目的とする身体の部位で
タンパク質として発現します。

理想的には
欠損もしくは不足タンパク質のかわりに
入れ込んだ遺伝子から
タンパク質がつくられて
機能を補ってくれる
わけです。
これが遺伝子治療です。

うまくいけば
この映像で
スバラシイ歌唱力を披露している
彼のように劇的に回復します。

アメリカ
America’s Got Talent 2017
Christian Guardino

実は
彼は
遺伝子治療を受けるまで
網膜が変性して
ほとんど相手の顔や明るささえ
わからなかったのです。

(実際にこの遺伝子治療にかかった費用は後述)



研究レベルでは
疾患ごとに
効果のある「入れ込む遺伝子」がわかっています。

でも
だれでも
彼のように
うまくいくのでしょうか?
遺伝子治療に問題はないのでしょうか?



遺伝子治療の歴史

遺伝子治療の歴史は
約30年ほどになります。

1990年、
初めて
アメリカで免疫不全症(ADA-SCID)の
4歳の女の子に対して
遺伝子治療が成功しました。

日本でも1995年に
北海道大学で遺伝性の免疫疾患の
男の子に適応されました。
ただ
その後は
アメリカとフランスで
遺伝子治療による
重い副作用(白血病)が続発しました。

これらの経験を踏まえ、
現在
より安全な遺伝子治療の開発が進んでいます。

とくに
遺伝子治療では
2つのツールが大切
です。

1つは入れ込む遺伝子。
もう一つは
遺伝子を運ぶウイルスベクターです。

ウイルスベクターとは
体内に遺伝子をいれる運び屋さんです。

簡単にいえば
ウイルスの感染性を逆に利用したわけです。

たとえば
インフルエンザでも
エイズでも
ウイルスは自分が増殖するために
必要なタンパク質を作ります。

これが身体にとっては
異物となり、
発熱がおこります。
身体が
異物を追い出すために
戦っている(発熱)のです。



遺伝子治療では
ウイルスの「病原体」が発現するところを
代わりに
病気を治すための「遺伝子」を入れ込むのです。

もちろん
ウイルスの安全性は
検証に検証を重ねています。
(いるはずです)

実際に使用されるウイルスベクターは
アデノ随伴ウィルス(AAV)です。



筋萎縮性側索硬化症への遺伝子治療

グルタミン酸の放出を抑制する薬剤(リルゾール)が
承認されています。
しかし
延命効果は約数カ月程度です。

現在、
抗炎症薬作用をもつイブジラスト(ケタス)が
アメリカの臨床試験後半まで進み、
有意な効果を認めています。

ALSにめまいの薬ケタスが有効

残念ながら
まだ日本では
治験も始まっていません。

さて
ALSの遺伝子治療ですが、
入れ込む遺伝子は
ADAR2という遺伝子が候補です。

これは
約10年前の以下の文献結果に基づいています。

「ALSの運動ニューロンでは
ADAR2というRNA編集酵素の発現が低下」という結果に基づいています。

原著文献
Glutamate receptors:
RNA editing and death of motor neurons
Yukio Kawahara, Kyoko Ito, Hui Sun, Hitoshi Aizawa, Ichiro Kanazawa & Shin Kwak
Nature 427 801- (2004)
https://www.nature.com/articles/427801a



パーキンソン病への遺伝子治療

パーキンソン病では
脳内の黒質にある神経細胞が
死滅することで
ドーパミン産生が極端に少なくなります。

その結果、
手足の震え、
歩行障害などパーキンソニズムが出現します。

90%以上のPDは孤発性です。
孤発性PDは複数の原因があわさっています。

原因は特定できませんが、
PDの患者さんの脳内では
ドーパミンが減っているという事実に基づき
現在
ドーパミンを分解する酵素を阻害する薬剤や
ドーパミンを補充する薬剤が
一般的に使われています。

さて
パーキンソン病の遺伝子治療では
何の遺伝子を入れるのでしょうか?

ドーパミンをより多く作るための遺伝子
組むこみます。

ドーパミンは
酵素を使って
チロシン => L-ドーパ  => ドーパミン
の順に作られます。

そこで
3つ遺伝子が候補に挙がっています。

TH(チロシンをLドーパにする酵素)
GCH(チロシンをLドーパにする補助酵素をつくる酵素)
AADC(Lドーパをドーパミンにする酵素)
です。



アルツハイマー病への遺伝子治療

老人斑を構成するアミロイドベータ(Aβ)を
分解する酵素「ネプリライシン」の遺伝子を入れ込む計画です。

老人斑が分解されて
なくなれば
症状も良くなるだろうと
考えられています。

アミロイド仮説に基づいています。



遺伝子治療の危うさ

現在遺伝子治療は世界中で行われており
その約65%はがん治療に対してです。

がん細胞の増殖を抑えるとされる遺伝子を注入する国内未承認の治療を行うクリニックで、期待した効果を得られなかったとする患者側とのトラブルが相次いでいる。
効果や安全性が立証されないまま、保険適用外の高額な自由診療で実施するクリニックが問題となっており、専門の学会が国に対策を求めている。

読売オンライン ヨミドクターより引用

これは
私見ですが、
遺伝子治療は
「ガン」の治療には向かないと思います。

遺伝子治療は
遺伝的に欠損タンパク質を
補うには効果があると思います。

しかし
ガン細胞のように
異常だらけの細胞に対して
遺伝子治療は
効果的だとは思えません。

ガン細胞そのものを選択的に破壊して
免疫系を利用する「光免疫療法」が
第一選択だと思います。

正確には
光免疫療法と微量の抗ガン剤(抗体医薬を含む)
光免疫療法と最小限の外科的手術
将来
ガン治療法の主力になるとおもいます。



遺伝子治療にかかる費用

自由診療という扱いのため
遺伝子治療の費用は自己負担です。
前述したスバラシイ歌唱力の
クリスチャン・ガーディアン(Christian Guardino)の場合には
47万5000ドルかかりました。
約5,000万円です。

アメリカの
ほかの患者さんの場合にも
同じ程度のコストがかかりました。

ヨーロッパでも
最初の遺伝子治療の患者さんは
一億円かかりました。
次の患者さんの場合には
約7,000万円でした。

症例数が多くなれば
価格も下がります。

将来的には
遺伝性疾患の患者さん一人に対して
約2,000-5,000万円ぐらいを想定しています。



遺伝子治療の今後

遺伝子治療にどれほどの効果があったとしても
私には到底払えないほどの
高額 (>_<) なものです。



遺伝子治療を
選択肢の一つとして挙げることはできますが、
遺伝子治療がこのままで
普及するとは
とうてい思えません。

医療格差がますます開くばかりです。

ガンに対しては
前述したように
遺伝子治療は
ターゲットが多すぎて
不向きだと思います。
(1つの遺伝子だけの変異であれば
効果がある可能性はあります。)

現実的に
多くのガンの場合には
光免疫療法と微量の抗ガン剤(抗体医薬を含む)や
光免疫療法と最小限の外科的手術が
将来
ガン治療法の主力だとおもいます。

5年、10年前よりも
技術もエビデンス面でも
関免疫療法は
より信頼できるものとなっています。



一方、
神経難病の
アルツハイマー病、
パーキンソン病に対しては

免疫療法(抗体医薬も含めて)は
がん治療と比べて
あまり効果がでていません。

アデュカヌマブに代表されるように
抗体医薬をつかった
免疫療法がどれほど効果があるか
結果を待つしかありません。

このような苦戦している中
治療の選択肢は多い方が良い。

遺伝子治療は
一つの選択肢かもしれません。



ALSに対しては
2017年12月に
アメリカの臨床試験結果が報告され
イブジラスト(ケタス)を
現在の薬に加えて併用することが
最新の治療方法です。
安全面、エビデンスもしっかりしています。

残念ながら
ALSの免疫療法は
ADやPDに比べるずっと遅れています。

抗原の解析・研究が不十分で、
免疫療法も進んでいません。

ただまったく進んでない訳ではありません。

TDP43という
タンパク質は抗原の一つの候補です。

滋賀医科大学の漆谷真教授らは京都大学、慶応義塾大学と共同で、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の原因といわれる物質を除去する抗体を開発した。マウスの脳に投与する実験などで効果を確かめた。根治につながる治療法になる可能性がある。今後、病気の動物モデルで安全性や効果を確認して臨床応用を目指す。

日本経済新聞より引用2018年5月31日

この報告は以下の論文結果です。
Sci Rep. 2018 Apr 16;8(1):6030.
doi: 10.1038/s41598-018-24463-3。

実は
この開発された抗体は
オートファジーを含む
細胞内分解系を亢進する
ことによって、
TDP-43凝集体を除去します。



長くなりましたが、
ガン、神経難病ともに
キーワードは
免疫と細胞内分解系という
いずれも
本来身体に備わっている能力を
最大限利用する治療法
です。

今後
どれだけ
技術や治療法が進歩しても
「身体の治癒力を活かす」という点は
はずせません。

むしろ
オートファジーや免疫力など
身体の治癒力を
最大限利用できる治療法は
もっとも効果的であり、
さらに
安全、安心、安価
だと思います。

身体の治癒力は
日々の
身体に取り込む食、
呼吸、ヒトとのふれあいなどで
大きく変化します。

地味ですが
できることを
日々の生活に取り入れ
一緒に治癒、予防、未病を実現しましょう。



大変長い記事を最後まで読んで頂き
ありがとうございました。

次世代には
認知症で苦労する人や
介護する人を少なくしたい。

「あなたから認知症予防を」をスローガンに
「研究」と同時に
このブログでコツコツと活動をしています。

一歩ずつですが
みんなで進んでいきましょう。
ご応援のほどよろしくお願いします。

みそしる一押しお願いします。

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